第10話「Holy grave」
「――ステルスバイパー」
砂漠。〈ガッツ〉の真正面の砂上が弾け、砂中から空中へと飛び出した
その長大にて特異なシルエットを前に、タルカスはその機体の名を忌々しげに
呟いた。
蛇型という、低い姿勢や地形に合わせて自在に変形する細長い独特の
フォルムを持つ奇襲攻撃機。砂漠や森に潜み、敵の接近を待って一撃で
仕留める戦法を得意とする。ことこうした身を潜める無限の地形となる砂漠に
おいては、まさに無敵の存在となる機体なのだ。
「こんな奴が潜んでやがったかよ!」
〈ガッツ〉の頭部コクピットにて、その宙を舞う機体を前に唸るゴドー。
そのステルスバイパーが、宙空から一直線に〈ガッツ〉に襲い掛かってくる。
迎え撃つべく構える〈ガッツ〉。と、
ブンッ! 宙空にて、自体を大きく揮うステルテバイパー。その長大な機体
そのものが巨大な質量を持った鞭となり、〈ガッツ〉に揮われる。
「うお!?」衝撃! その直撃を胸板に受け、足元の砂を抉って大きく後退
する。危うく倒れかける〈ガッツ〉。「こっ、このヤロ!」
呻くゴドーを尻目に、着地し砂上を高速で這いずり回るステルスバイパー。
「ここが奴のテリトリーだったとは、砂漠の武器屋としてなんたる迂闊!」
砂漠におけるこの機体の脅威を知る者として、忌々しげに唸り、自機〈
バレット〉のレールガンを砂上に向けるタルカス。
ズズズズ…、しかし砂漠の上での思わぬ高速機動に照準が追いつかない。
一瞬にしてタルカスの視界から消えるステルスバイパー。
「――っ!」
突然、〈ガッツ〉が振り向き、自機へと向かって駆け出してくる。その思わぬ
行動に、一瞬と惑うタルカス。
「ゴドー・スマッシュ、一体何の…」
「後ろだ、おっさん!」
「なに!?」
振り向くタルカス。その、〈バレット〉の背後の砂が突如弾け、先程と同様
突然飛び出してくるステルスバイパー。
流石にタルカスの反応も早い。背の高機動装備、フレキシブルスラスターが
展開、僅かな距離をブーストにて瞬時に移動してその強襲を逃れる。今まで
〈バレット〉がいた位置に打ち付けられる鋼鉄の鞭。
再び目前に姿を現した鋼の毒蛇へと向かい、レールガンを連射する
〈バレット〉。しかし、その砂上に跳ねる弾丸をあざ笑うかのように高速で
動き回るステルスバイパー。その動きの俊敏さに〈バレット〉の砲撃も
追いつかない。
瞬時に〈ガッツ〉と〈バレット〉の前まで距離を詰めてきたかと思うと、
2機同時にとばかり宙に跳ね襲いかかって来る。
「ゴドー! タルカスさん!」
空中、自機である白いレドラーのコクピットにて、流石に悲鳴を上げる
アミーナ。と、
轟! 突然、ステルスバイパーと〈ガッツ〉、〈バレット〉の間に炸裂する
砲撃! その砂上に巻き起こった爆発に、空中での機動を狂わされ見当違いの
方向へと着地することとなるステルスバイパー。一方難を逃れた2機も、
頭上から大量の砂を被っている。
「あれは…」
空中から、その砲撃が来た方向へ目を向けるアミーナ。
背にソードレールキャノンを背負った、重装甲の機体。少女騎士ヘルメス
駆るスティルアーマーだ。
二射、三射とソードレールキャノンを撃つ。だが砂塵を上げ高速で移動し、
その砲撃をことごとく躱してみせるステルスバイパー。砲弾が砂上を抉る度、
爆発で舞い上がった大量の砂塵がその敵機の姿を隠してしまう。
「ちっ…」
スティルアーマーのコクピット内にて舌打ちするヘルメス。一瞬にて視界から
消えた敵機の姿を探そうとする。
「――左だ!」
ゴドーが叫んだ。その叫びの通り、左側からスティルアーマーに襲い掛かる
ステルスバイパー。基本的に鈍重な機体と相まって、さしものヘルメスと
いえどその高速の強襲に対応が間に合わない。
尻尾の強烈な一撃…! 左腿の装甲に強烈な衝撃を喰らい、横に倒れる
スティルアーマー。
「何やってんだおめーはよ!」
たまらずスティルアーマーに〈ガッツ〉を走らせるゴドー。予想以上の強烈な
衝撃を喰らったのか、再び機体を起こそうとするスティルアーマーの動きが
鈍い。その間にも再度襲いかかろうとしているステルスバイパー。刹那、
「全員、目をつぶれ!」
タルカスが吼えた。〈バレット〉が尻尾の先のマルチプルランチャーを
撃つ。ステルスバイパーのほぼ鼻先といった砂上に命中、迸る閃光――。
★
電磁錯乱弾。閃光とともにゾイドの視界を担うセンサー系を狂わす電磁波を
発し、搭乗者の目はともかく、ゾイドの電子的な視界はこれで奪われてしまう。
ハンティング時の目眩まし用の装備だったが、迂闊にも砂上に姿を現した
ステルスバイパーにはことさら効果的だった。一瞬にて視覚を奪われ、
ステルスバイパー、たまらず砂の中に逃げ出している。
危機は去ったものの、まだゴドーたちはその砂漠の上から動けずにいた。
スティルアーマーが片脚をやられて動けず、また、現状では狙った獲物は
必ず仕留めるというステルスバイパーの習性から逃れる術もないのだ。
「あの目眩ましの効果もそうそう長時間はもつまい。そうなれば奴は再び
襲いかかってくる」
唯一飛行型ゾイドであるレドラーとそれに乗るアミーナに、タルカスは
自分の倉庫からあるものを持ってこさせることを託し、先に引き返させた。
「最悪〈バレット〉の損害覚悟だか…この窮地を乗り切るにはあれを使う
しかない」
「アレってなんだよ?」
「ストライクが、貴様に託そうとしていたものだ」
炎天下、スティルアーマーの左脚の付け根に取り付き、修理に取り掛かって
いるタルカスとそれを手伝うゴドー。〈ガッツ〉の手を足場にゴドーが立ち、
一歩離れる〈バレット〉の手には外された左腿の装甲が持たされている。
「あぢぃ…てーか、なんで俺がこいつの機体なんか修理しなきゃなんねえんだ?」
〈ガッツ〉の右掌の上。大型機械用の大振りな工具を手に、炎天下での修理
作業。容赦なく照りつけ肌を灼く陽光と、絶え間なく流れ出不快な汗に音を
上げかけているゴドー。
「あのステルスバイパーの恐ろしさは身に沁みた筈だ」と、そのゴドーより上方、
スティルアーマーの腿の上に直接立って作業を進めているタルカス。
「アミーナが例のものを持ってきてくれたとして、奴相手にそれを使うためには
砲撃による牽制が不可欠。それが出来るとしたらこの機体しかない」
「俺こいつに、何度も苦い汁飲まされてんだけどよ…」
「口より先に手を動かせ」
そのゴドーの隣、〈ガッツ〉の左掌に立って黙々と作業を続けるヘルメスが
告げる。カチンと来るゴドー。
「あのな、誰の機体直してやってると思ってんだコラ?」
「さっき、誰が残り少ない砲弾を使って助けてやったと思っている?」
炎天下に関わらず汗ひとつ流さず、文字通り涼しい顔で応じるヘルメス。
「フィフティ: フィフティだ。貸した物は返すのが礼儀だろう、ゴドー・
スマッシユ」
「お前いい根性してるって言われるだろ言われてるだろ!」不平不満を垂れ
つつも、修理の手は放り出さないゴドー。「ま、こうなったらちょうどいい
機会か。いろいろハッキリさせとこうじゃないかよ」
「何をだ」
「お前の兄貴とか、そもそもお前らデュケーンって何モンだとかイロイロだよ。
そもそもよ…お前ら、なんでアミーナのレドラーを狙ってんだよ?」
「それなら、あの女は何者だ、ゴドー・スマッシュ」ゴドーのほうを見もせず、
工具を持った手を動かし応じる。「何故…あの方の顔をした女が、あの機体に
乗っている?」
「あの方って…やっぱりアミーナって、どっかのお嬢さんかお姫様なのかっ!?」
「何?」
「てーか、お前らアミーナの素性知らねえのかよ?」
「私と兄さまの目的は、あくまであの白いレドラー。あんな女のことなど
知らない」
「あいつはな、あのレドラーに乗っていたところを俺が捕まえたんだぞ!」
その、ゴドーの聞き捨てならない言葉に、ヘルメスの手が一瞬止まる。
「あの機体に乗っていた…だと?」
「いやそれより、お前言ったじゃねえかよ! アミーナのこと、“あの方の
顔をした女”ってよ! お前、絶対あいつのこと何か知ってんだろ」
「貴様、あの女の素性を何も知らないというのか?」
「俺がハンターになって、初めて捕まえたのがうちの町で暴走していたあの
レドラーだ。とんでもねえ野良と思ってたそいつのコクピットの中で、
アミーナはノびてた。事情を聞いてみりゃあの通りの変な奴で、ついでに
記憶喪失ときやがった」
「記憶喪失、だと?…だが、いや、あの方のはずはない」自身に言い聞かせる
ようなヘルメス。「あの方は…私たちの目の前で」
「…要するに、似た奴を知ってるってだけかよ」
舌打ちしつつ、ボルトに噛ませたレンチがやや斜め上の位置に来たところで
レンチをガンガン蹴り下ろし、乱暴気味に最後のボルトを締める。
「馬鹿者! もっと丁寧に扱え、騎士の機体を何と心得るか!」
「てめーっ、だぁーれが修理手伝ってやってると思ってんだコラァ!――オラ、
こっちは終わったぞ。部品にいくつかヒビ入ってるがよ、無茶に走らせたり
しなきゃ問題ねえだろ」
「フン…」
鼻を鳴らし、ヘルメスも最後のボルトを締める。
砂上に降りる二人。タルカスの乗った〈バレット〉が左腿の装甲を取り
付ける作業を見上げる。
「まだ話は終わってねえな。レドラーのこととかお前らデュケーンのこととか」
大きな工具を肩に担ぎ、ヘルメスに向き直るゴドー。「結局ストライクの兄貴
にゃ話はぐらかされちまったんだがよ…お前らの国が“消えた”って、
どういうことだ?」
以前、兄貴分であるストライクにデュケーンナイツに関わる話を聞いたとき、
ゴドーの胸にわだかまった話題だった。ヘルメスとその兄ハデスが所属した
最強の騎士団デュケーンナイツ、しかしその祖国は、1年前謎の“消失”を
遂げたという…。
「貴様に教える義理はない」
「あのなぁ!」にべもないヘルメスに、思わず噛み付くゴドー。「こっちは
アミーナのこととかレドラーのこととか知ってる限りの情報教えてやった
だろうが! そっちもお返しにこっちの知りたいこと教えてやろうって礼儀の
心はねえのか、んぁ!?」
「貴様が、こちらにとって必要な情報を何も知らないというのが判った。
無益かつ無駄な情報など対価にはならん。――それに忘れるな。私は、貴様が
兄さまとの決闘の日までに逃げ出さないための監視役。貴様を助けたのは、
貴様との決着が兄さまの望みだからだ。元より貴様と言葉を交わす必要
などどこにもない」
「ぐがが…」
「――まあ心配するな。兄さまのために貴様を死なせる訳にもいかん。
この場は、貴様は私が守ってやる。この命に代えてもな」
「こっ、この女…!」
刹那、
ドバァッ! 付近の砂面が、大爆発を起こしたがごとく突然弾けた。巻き
上がる砂塵と、そこから覗く機械生命体の無表情にて冷徹な鎌首。再び砂中
からステルスバイパーが出現したのだ。
「しまった――」
呻くヘルメス。こうもすぐ近くに出現されては、自機に乗り込むのも間に
合わない。まずは眼前にて目についたヘルメスに対し、鎌首を振り下ろして
襲い掛かってくるステルスバイパー。
「――っ!?」
襲い掛かってくるステルスバイパーに対し、一瞬呆然となったヘルメスの
身体が突然真横に飛んだ。そのヘルメスが立っていた位置に突っ込む
ステルスバイパーの鎌首。
ゴドーが、いきなりヘルメスの身体に飛びつき、その身を抱きしめたまま
横に飛んだのだ。
「なにボサッとしてやがる!」
そのヘルメスを抱き起こし、一括するゴドー。
「貴様に言われる筋合いは――何故助けた」
「んぁ?」
「私は、貴様の敵だぞ」
「舐めんな姉ちゃん、俺は男だ!」怒鳴り返す。「女に、命に代えても
守ってやるなんて言われてちゃあよ、めっちゃ
カッコ悪ィんだよ!」
それだけ吐き捨て、ヘルメスの実から離れて自機〈ガッツ〉へと走る
ゴドー。既に〈バレット〉が右肩のレールガンにて敵機の動きを追って
いるが、当然というかそのスピードの前に、撃った弾が砂上に空しく着弾
している。
「タルカス、左右から撃つぞ」
ヘルメスが乗り込んだ、応急修理の終わったスティルアーマーが〈バレット〉
の隣に並んだ。なおも砂上を高速で疾るスティルアーマーに対し、二方向から
砲撃を加える。だがやはりその高速の動きに狙いが定まらない。牽制にも
ならない砲弾を浪費している間にも、瞬時に視界の範囲から飛び出してしまう
ステルスバイパー。
「どこに――!?」
「右だーーーッ!」
ゴドーの絶叫がタルカスに響く。は、となるタルカスだが、既に自機の右
――真横に出現しているステルスバイパー…、
バシッ! ステルスバイパーの自体を鞭とした尾の一撃が〈バレット〉の
右腕を叩いた。その一撃で、がくんと下方に垂れ下がる右腕。
「しまった、これではアミーナがあれを届けてくれても…」
「くっ!」
スティルアーマーが連射するも、なおもその砲撃を高速にて潜り抜ける
ステルスバイパー。また一瞬にしてヘルメスの視界から消えてしまう。
「どこから――!」
「左ナナメ後ろ! 見えなくてもいいからとにかく撃てーーーッ!」
「な…ちぃっ!」
スティルアーマーの隣に並んだ〈ガッツ〉から、ゴドーが叫ぶ。とにかく
その叫びに素早く応じ、言われた方向に砲身を向ける。一射! 斜め後方から
接近してきていたステルスバイパーの、すぐ鼻先に着弾…!
「何!?」
一瞬驚いたように動きを止めるも、すぐにあらぬ方向へと素早く逃げる
ステルスバイパー。
「ケツのほうから狙う気だ、そのまま左後ろへ流し撃ちしろ!」
「左へ動いたというんだな!」
パイロットの死角となる後方を左回りに、ゴドーの言うとおりにソード
レールキャノンを斉射する。まさにそのゴドーの言葉どおり、後方から
回り込もうとしつつも鼻先を掠める着弾に近付けないでいるステルスバイパー。
思い切ったかのように宙空へと跳ぶ。
「右斜め前上空、ほぼ90度!」
「くっ!」
慌てて砲身を跳ね上げるものの、仰角調整が間に合わない。ヘルメスの視界に
その姿を映さないまま、上空から襲い来るステルスバイパー、
GAN! その頭部横の装甲を、〈バレット〉のレールガンの弾丸が掠った。
装甲を僅かに抉られ、軌道をそれて砂上に着地するステルスバイパー。
「あーーーっ! 惜しい、何やってんだよおっさんよ!」
「ゴドー・スマッシュ! 貴様…」当のタルカスは、さすがに驚きを隠せずに
いた。「あの、ステルスバイパーの動きが――見えるのか!?」
「ちいとばかしチョコマカしてやがるが、あの程度うちの台所に出る
チャバネゴキゴキといい勝負だぜ」
「では何故さっきは…」
「仕方ねえだろ! いくら動きが見えても、〈ガッツ〉にゃあいつのスピードを
追える武器がねえんだからよ!」
「なんと…」
思いも寄らなかったゴドーの動体視力のとてつもなさに、正直舌を巻く。
先までのガイサックの群れ狩りを思い返した。小型機という体躯に見合わぬ
出力を持つゾイドと、それを使いこなし次々と群がる野良ゾイドを叩き伏せて
いく乗り手の技量。ある意味最強のコンビネーション…!
「なるほどストライク、この小僧にアレを預けろとはそういうことか」
そこへ、
「ゴドーーーっ!」
BUN――! 爆音を上げ、上空から超高速で迫る白い影。アミーナの
レドラーだ。
空から高速接近して来たレドラーが、その手に抱えていた黒い物体を落とす。
ザザザッ…! 高速にて砂上を抉りこみ、砂漠に突き立つ物体。
これこそタルカスがアミーナに、自分の倉庫から持ってくるよう指示した物
である。黒い布に巻かれた、大振りな円筒状の物体。
「ゴドー・スマッシュ! あれがストライクが貴様に託そうとしていたものだ、
そいつを装備しろ!」吼えるタルカス。「――貴様には、それが似合う!」
「おおぉっ!」
砂漠に斜めに突き立った、その武器の元へと走る〈ガッツ〉。させじと、
その〈ガッツ〉に跳びかかろうとするステルスバイパー。
「!」
一瞬、敵機から目を離したのが命取りだった。〈ガッツ〉の後方から
飛びかかる毒蛇。避けきれない――、
GAN――! 衝撃音。〈ガッツ〉のすぐ後方、ステルスバイパーの突撃を、
横腹に受けて防いでいる…スティルアーマー。
「…言ったろう。貴様は、命に代えても私が守ってやる、とな」
衝撃でコクピットの内壁に額をぶつけ、血を流しつつ呻くヘルメス。砂漠
最強の毒蛇の突撃をまともに受け、再び横に倒れるスティルアーマー。
「ちっ…畜生ォーーーッ!」
ゴドーの絶叫! 砂上に突き立った武器の元に辿り着く〈ガッツ〉、その
武器を包んだ布を一気に払いのける。
「こいつは…」
その、砂漠の太陽の元に晒された、黒き鋼鉄の武器を前に息を呑むゴドー。
黒い、鋼鉄の地肌を剥き出しとした円筒状の機関部には要所要所を金色の
バンパーで固められ、機関部の真下には、この武器の威力を解き放つため
の爆発力をカートリッジに込め収めた回転式のシリンダーが覗いている。
そして、砂上に突き立つ、鈍い光沢の銀の長槍…。
「パイルバンカー…これなら!」
黒い長槍を両手に取り、構える〈ガッツ〉。ゴドーの目が、自機の周りを
高速で這いずるステルスバイパーを捉える。
緊迫する一瞬――、
ザッ――、砂上を飛び出し、〈ガッツ〉に襲い掛かるステルスバイパー。
だが、その瞬間はゴドーの視界に捉えられている。
「うおおおおおおおおおおおッ!」
鋼鉄の長槍を振り上げる〈ガッツ〉。ステルスバイパーが最も近付いた
瞬間、右手に掴んだ本体とのジョイント部――長槍の射出用の引鉄――を捻る。
轟――ッ!
僅かに回転するシリンダー、そこに収められたカートリッジの尻を叩く
ハンマー、機関部に叩き込まれる爆発的なパワー、
音をも越えるであろう超高速で撃ち出される銀色の長槍――。
★
ゴドーの動体視力と、長槍を撃ち放つスピードの勝利だった。胴体を見事に
長槍で貫かれた――ばかりでなく、“胴体そのものが粉々に四散”し、頭と
僅かな長さの尻尾、二つに千切れて砂上に転がるステルスバイパーの残骸。
そして、それだけの威力を前に、〈ガッツ〉もまた只では済まなかった。
黒いパイルバンカーを砂上に落とした両腕の構造には亀裂が入り、もはや力なく
下方に垂れ下がってしまっている。
「パイルバンカーオリジン〈ドラグーン〉。兵装用、工業用を問わず現存する
すべてのパイルバンカーの、四基作られたプロトタイプのひとつ。こいつは
そのシリアルナンバー2だ」
〈ガッツ〉から降り、その愛機の姿に呆然と
なっているゴドーに、タルカスが告げる。
「現存するパイルバンカーは
ゴドスのような小型ゾイドでも扱えるものとなっているが…ご覧の通り
“本物”のこいつはそんな生易しいものではない。かつてストライクは、
こいつを使うために幾つものゾイドを潰してしまった物だが」
「敵どころか…使うゾイドそのものをぶっ壊しちまうほどの威力を持って
んのかよ?」
「だが、自らが一線から退いたところで、こいつを扱えるやも知れぬゾイドに
巡りあえたか。ストライクの奴め、皮肉な話よ」何故か、嬉しげににやりと
微笑む。「ゴドー・スマッシュ、この機体、俺に預けろ」
「何だと?」
「亡霊との決着は5日後だったな。それまでに、この機体を〈ドラグーン〉に
対応できるよう改造する」
「こんなやべえもん持たせて、〈ガッツ〉を戦わせる気かよ!」
その時、
ガァァァァァッ! 空を斬り裂く、金属的な咆吼。
破砕した両腕をだらりと垂れ下げたままの〈ガッツ〉が、空に向かって
大きく吼えているのだ。
「ガ、〈ガッツ〉…?」
「〈ガッツ〉…喜んでる」
ゴドーの横に並んだアミーナが、ぽつりと告げる。
「喜んでる…だと?」
呆然となるゴドーの目前で、二度、三度と宙空に吼える。
「…それは勝利の雄叫び。両腕を失った激痛に勝る、比類なき新たな力を手に
入れたことへの、凶暴なまでの歓喜の咆吼…」
その〈ガッツ〉の咆吼の様に、アミーナ、告げる。その決然ともした表情は、
ゴドーが今まで彼女に対して見たことのない顔だ。
「…戦うために生まれた生命の、自らの生きていることの証…」
★
「貴様は、フォッシルコロニーに戻れ」
〈ガッツ〉の修理のためにタルカスの元に残ろうとしたゴドーに、にべもなく
そのタルカスは言い放った
「貴様がここに来るのと1日すれ違いに、あるハンターが俺の店に立ち寄り
フォッシルコロニーへと向かった。ゾイドハンターとして亡霊に勝つつもりで
いるなら、奴に逢うがいい。奴と出会うことで、必ずや貴様の道は開く」
「奴って、誰だよ」
「貴様も知っている女だ」そこで、にやりと笑うタルカス。「あの女には
――紅い獅子が似合う」
「って、まさか…」
戦慄するゴドー。
タルカスの言葉だけで判った。確かに自身が知りうる最高のハンターであり、
同時にゴドーにとって最も恐るべきハンターでもあるのだ。
★
「んで、なんでお前と一緒に帰んなきゃなんねえんだよ」
フォッシルコロニーへの帰り道。上空を低速飛行するアミーナのレドラーを
見上げ、スティルアーマーの背に立つゴドーは呻いた。
「言ったはずだ。私は兄さまと貴様が決着をつけるまでの、貴様の監視役で
あり護衛でもある」開いたままのコクピット・ハッチから包帯を巻いた額を
覗かせ、ヘルメスが応じる。「あと5日、貴様は私の目の届くところにいて
もらう。そのつもりでいろ」
「あのな、俺はお前の兄貴をぶっ倒せる武器を手に入れちまったんだぞ。
そのことの報告はいいのかよ?」
「私が兄さまから承ったのは、貴様が逃げ出さないことの監視。――その使命に
報告は含まれていない」
「ケッ! お前、とことん変な女」
「私に言わせれば――なぜ兄さまが貴様などに決闘の猶予を与えたのが
不思議だ」
「あーそーですかよ!――それと」そっぽを向き、しぶしぶながら告げる。
「…そのデコのケガ、悪かった。俺のせいだ」
「……」
一度だけ額の包帯に触れつつ、その、ゴドーの声に振り向きもしない
ヘルメス。しかし、
「――ひとつだけ教えてやる」告げる。「私たちの祖国が消え、私たちに
とって大切な方が、私たちの目の前で亡くなられた…それが、すべての
始まりだ。私と兄さまが、亡霊としての道を歩まざるを得なくなった、
すべての、な…」
★
「ゴドー・スマッシュ」
砂漠の真中に位置する、かつての軍事施設の跡を使用しているタルカスの
武器屋。その倉庫兼整備所の整備ハンガーに収められた〈ガッツ〉を見上げ、
武器屋タルス・タルカスはゴドーの名を呟いた。
「――貴様と、この〈ガッツ〉ならば出来るかもしれん。亡霊に架せられた、
重い戒めを解き放つことが、な」
あとがき
またも約4ヶ月も前回から間を空けてしまひました…。別にコンテンツに
対する情熱だのヤル気だのが廃れたということは全然なくて、純然に他に
やることありすぎたからなんですけどね(本当だってば!)。
まあ久々の「荒鉄」、とりあうずお手軽ながら新造形も登場です。てーか
模型コンテンツで「ゾイド」のオリジナルストーリーやろうってんだから
当然といえば当然なんですが。今回はご覧のとおり主役機用の新兵器登場編で
あります。やはり主役機がゴドスということで、パイルバンカーは登場を
狙っていた装備であります。やはりアニメ本編でのイメージが強いためか、
ゴドスの武器といえばパイルバンカーですな。割と派手に見える改造を
施しましたが、一応子供のゾイドファンが見て「かっこいい! これほしい!」
とか絶叫しそうなモノを狙ってみたつもり…。今後も要所に合わせて大活躍
してくれる武器となるはず。
さて、今後の予定としては、とりあえず「ザンサイバー」を1話上げてから、
秋のイベント用新作ガレキの開発に入る予定…まああくまで予定でありますが。
とりあえず「荒鉄」や「ザンサイバー」を先に進めるため、今回のイベントに
ついては既出品の一部修正版で茶を濁そうとかも考えたり。まあ、また
スケジュールとヤル気の勝負ではありますが。
ともあれ「荒鉄」の続きは今度こそ(できるだけ)早めに上げることを
誓いつつ、んではまた次回。
(2005.9.6)
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豪雪地帯酒店・第二事業部はものをつくりたい
すべての人々を応援します。
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