第5話「Gamble Racer」

「あ、競ゾイ始まる」

 ティータの人さし指が、古いダイヤル式チャンネルのテレビのスイッチを 入れた。
 労働者の土曜と日曜の午後の楽しみは何か? 競ゾイのテレビ中継に 決まっている。ここスマッシュ運送サービスにおいても、仕事がひと段落 ついた午後のひと時、事務室のテレビの前で白熱の時間が展開されて いたりした。
 画面の中、銅鑼の音と共に一斉にスタートを切る出場9体のゾイド。

「オラ行け〜〜〜〈プリンスヨサコイ〉! オレは昨日の稼ぎ全額お前に 張ったんだからよ〜〜〜!!」
「キャ〜〜〜!! 出だしいいわ〜〜〜、〈ビューティフルグリーン〉 様〜〜〜!!」
「お茶入ったよー」
「それ〜〜〜ヨサコイが行った〜〜〜!」
「グリーン様〜〜〜来たわよ〜〜〜!」
「あ〜〜〜あ〜〜〜グリーンのバカ、アンコになって結局後退だよ…!」
「イヤ〜〜〜! 神様仏様グリーン様〜〜〜! 私のお金〜〜〜!」
「病院前の果物屋さんがたい焼きの屋台出してたから買ってきたよー」
「キャ〜〜〜! グリーン様捲りに来た〜〜〜!!」
「無理だろ〜〜〜! ヨサコイも結構かかっちまってるしよ〜〜〜 グェッヘッヘ〜〜〜!」
「あんことー、クリームとー、ハムネーズ買ってきたー。おもしろいね、 ほかほかの皮にハムとマヨネーズを包んで焼いてるんだって」
「キャ〜〜〜! ヨサコイの外をグリーン様が捲ってった〜〜〜!」
「な、なんだよこいつの捲り!? 他の奴らとは全然スピードが違うじゃ ねえか…!」
「じゃ、私クリームもらいー」
「キャ〜〜〜! とうとうぶっちぎって1着よ〜〜〜!!」
「コラ〜〜〜コノヤロ〜〜〜! ブタとブルドックとバフンウニを合わせた ようなツラしやがって、ど〜〜〜してそんなサギみてえなマネすんだよ 〜〜〜!!」
「おーっほっほっほ! 勝利の後のお茶は格別ねー♪」
「ゴドー、あんことハムネーズ、どっちにする?」
「オレはたい焼きは絶対あんこだって決めてんだよチクショ〜〜〜よこせ」

 さっ、とゴドーの大好物であるあんこ入りたい焼きを、ティータが横から かっさらう。

「あっ! コノヤロテメ〜〜〜!!」
「うっさいわね敗者にはコレステロールの塊ハムネーズがお似合いよ。 モグモグ、うん、たい焼きはやっぱりあんこが最高だよう」
「どっかの幽体離脱した萌えキャラじゃあるまいしニコニコ幸せそうに 喰うな! チキショ〜〜〜額に汗して働くキ真面目な労働者のこのオレが、 なんでこんな度胸試しメニューみてえなたい焼きを…」
「それはそうと、ゴドーくぅん、さっき聞き捨てならないこと言ってた わよね? 『昨日の稼ぎ、全額張った』って」
「え?」
「支払いは月曜に振込みになるってったの大ウソだったのねこのバカ 〜〜〜!!」
「ヒエ〜〜〜!!」

 ゴドーが容赦なくティータにぶっとばされる騒ぎをよそに、来客の チャイムが鳴った。ひと足先にお茶(クリーム入りたい焼き)を済ませた アミーナが事務所のドアを開ける。

「ゴド〜〜〜! ティータ〜〜〜! 悩めるボクを助けてくれ〜〜〜!」

 スマッシュ運送サービス最大のお得意、フォン・ツォーンが泣きながら 駆け込んできた。


「儂ゃあゾイドケンタウロスを見たんじゃ…」
「あのジイサンまた始まったぜ」

 フォッシルコロニー郊外、フォッシルコロニー競ゾイ場。今日も 一攫千金を賭ける社会のクズ…もとい生真面目な労働者(プーもいるけど) の皆さんが、ささやかな稼ぎを手に集まっていた。その中に、大戦中歴戦の ゾイド乗りと呼ばれ敵に恐れられたというチューレン・ポウトウ氏(87) の姿もあった。
 ただし、高齢もあってチューレン氏はそろそろボケていた。

「その者ゴジュラスの身体に、サラマンダーの翼を持って空を天駆け、 ウルトラザウルスの重厚なる四つ足を持って大地を割り、果てしなく続くと 思われた大戦にひとつの終止符を打った伝説の存在。その者の姿に敵は 逃げ悪は恐れ、善なる者には尽きることなき勇気を与え続けたという… ブツブツ」
「…いるのかそんな冗談みたいなゾイド?」
「知るかよ。それよりジイサン、明日のレースだけどよ」

 チューレン氏に話しかけた若者の言葉に、半ば呆けていたチューレン氏の 表情が瞬時に引き締まった。心なしか腰まで伸ばして、手にした、 赤エンピツでくまなくチェックされた競ゾイ新聞を広げる。

「…〈ビューティフルグリーン〉はここんとこ堅調だからまず買っといて 損はあるめえ。〈ヨサコイプリンス〉の野郎は逃げが甘ぇからまず流し だな。そうなるとドスジはグリーンで決まりだが、順当に狙うなら二番手 買いで〈カネイシヤッコサン〉と〈ナニワヤカキノタネ〉を押さえてても いいだろ…」
「てーと1−4か1−5が狙い目か…」
「ヘッヘッヘ、いつも稼がせてもらって悪ィなジイサン」

 …老後のチューレン氏は退役後、名うての予想屋として新たな人生を 歩んでいた。


「オーナーになったゾイドが、逃げたぁ?」

フォンの話によれば、競ゾイに出すつもりで自らオーナーとなり購入した 競争用ゾイドが、運送中に野良ゾイドの襲撃を受けて騒ぎで逃げ出して しまったとのことだった。逃げ出したゾイドはライトニングサイクス。 装備された「コネクト・コア・サイド・システム(機体内部にゾイドコア 本体、背部にエネルギー供給機をと動力系を内外に分割し、駆動部の 小型化を図ったシステム)」が特徴的な、最高速度時速325Kmをマークする 超高速型ゾイドだ。フォンの依頼はその機体を捕まえ回収することである。

「頼む! 地の上を超高速で突っ走るアイツを捕まえるとなると、頼りは 高速で空を飛べるアミーナのレドラーだけだ!」
「なんかオレとしては言い方気に喰わねえが…それにしたって判んねえな」
「え?」
「大体あんたんとこ、自前のチームだって抱えてるし高速飛行できるゾイド だって確か持ってたろ? オマケにハンター協会にも依頼を出せば、 (金はかかるが)探す人員も増えて手間いらずじゃねえか。なんでわざわざ ウチみてえな小っせえとこに頭下げに来んだよ?」
「そ、それはだな…」

 ゴニョゴニョと、ゴドーたちに耳打ちするフォン。

「…希少価値のあるゾイドなので」
「違法と知りつつヤミ業者から仕入れた…」

 恥ずかしげに、コクンと頷くフォン。


 夕暮れの荒野を、ゴドーの〈ガッツ〉とアミーナのレドラーは、逃げた ライトニングサイクスを輸送していたキャラバンが野良ゾイドに襲撃された 地点に赴いていた。ただしそこには先客がいた。同業者であるゾイド ハンター、ジェリー・カーライル率いるカーライル一家だ。

「なんでお前らがここにいやがんだよ」
「協会からの仕事をうちが取ったのよ。最近この辺でキャラバンを襲う 野良ゾイドを捕獲してくれって」

 ブッ、と吹き出すゴドー。

「襲った奴はプテラスだって判ってんだけどさ、被害者の中に違法で ゾイド売買してるヤミ業者が混じっててね、そいつらを摘発する証拠 になる、襲撃のドサクサで逃げ出したゾイドも探さなきゃなんないのよ。 まったく二度手間だったら」
「その逃げ出したゾイドって…まさか」
「ライトニングサイクスだってさ。まったく、よりによってあんな足が 速いのを」
「ああ、それだったら」
「わ〜〜〜! わ〜〜〜! わ〜〜〜!!」何か言いかけるアミーナの声を 慌てて遮る。「ダヒャヒャヒャ! 大変だなオイ! じゃオレっちは この辺で失礼させてもらわあ。せいぜい頑張れよ〜〜〜アバヨ〜〜〜!」

 アミーナのレドラーを連れ、ゴドーの哄笑を残して慌ててその場を 逃げ去る〈ガッツ〉。

「チックショ〜〜〜めえったな。もう協会のほうにも手が回ってやがる…」 ジェリーたちから遠ざかり、ひとりごちに呻く。「とにかく昨日の稼ぎを フイにしたのがティータにバレた以上、この上フォンのバカ大将の依頼まで パアにしちまったらうちに帰れねえ…。こりゃ徹夜してでもなんとか ジェリー達より先に逃げたサイクス見つけねえと…」


 そして、ゴドーはひと晩徹夜でエッホエッホと荒野を走り回った。


 翌朝。

「チックショ〜〜〜コノヤロ〜〜〜。アミーナの奴は暗くなったらさっさと 寝ちまったし、ったくアイツ使えねえ…」

 そのアミーナは、現在ゴドーにパシらされて朝メシの調達に行っている。 結局逃げたゾイドは見つからず、荒野のど真ん中にてぐったりと座している 〈ガッツ〉。コクピットの中ではゴドーも参ったという顔で伸びていた。
 荒野にひとり、ぐすんと鼻を鳴らすゴドー。

「ハァ〜〜〜それにしてもオレっちも可愛そうな男だよな〜〜〜。キ真面目 にコツコツ働いて稼いだカネをあんな鬼妹に搾取されまくりでよ…。 こうしてひと晩徹夜でハラも減らして働いた稼ぎも、結局みんな持って かれちまうんだよな〜〜〜」
「…あんた、なにブツブツ言ってんの?」
「って、おわっ!」
 唐突にその場に現れた真紅のレオブレイズ〈ライオット〉の姿に、 跳ね起きるゴドー。乗っているのは当然ジェリーである。昨日の捜索を 今朝になって再開したのだ。
 結局、「どうせヒマなら手伝え」とばかり、ジェリーと連れ立って捜索を 再開することとなるゴドー。

「やべえな…もしヘタにこいつが先にサイクス見つけ出したりしたら 面倒だ。なんとか出し抜くスキを見つけねえと…」
「うん? なんか言った」
「ケッ、なんでもねえよフン」
「ちょっと何よその態度」
「うっせえな。こっちだってヒマじゃねえのに、なんでお前なんかと仲良く ツルんで行動しなきゃなんねえんだってんだよ」
「何ですって!」

 GAN! 怒りのストライクレーザークローが〈ガッツ〉をぶっ とばした。あでっ! と付近の岩場に叩きつけられる。

「ナ、何しやがんだコノヤロ〜〜〜! んっ?」

 その岩場の影にて、もぞもぞと蠢いていた影を目ざとく見つけるゴドー。
 特徴的な、巨大な翼マグネッサー・ウイングを背負ったシルエット。 あれは確か…、

「ラッキ〜〜〜! 手配されてたプテラス見つけちゃった〜〜〜!!」
「なんですって〜〜〜!?」


「手間取らせやがってコノヤロ〜〜〜! 観念しやがれ」

 紆余曲折の末プテラスは、その翼で空に逃げ出す間もなく〈ガッツ〉に ボコられる形で捕獲された。ワイヤーで縛り上げられ、〈ガッツ〉の背に 括り付けられているプテラス。

「いや〜〜〜やったわね〜〜〜ゴドーくぅん〜〜〜!」

 擦り寄るように駆けてくる〈ライオット〉。実際、プテラスを背負った 〈ガッツ〉の足元にゴロゴロと擦り寄る

「ニャ〜〜〜ン、ゴロニャ〜〜〜ン」
「フン、おめえとも長い付き合いだけどよ…」その足元に擦り寄るジェリー に、ジロジロ冷ややかな視線を送るゴドー。「でも今日限りにさせて もらうぜ、アバヨ」
「きゃっ!」

 ダッシュ、〈ガッツ〉必殺の猛加速にてその場から走り出す。ドサクサに 〈ライオット〉をけっとばしていくことも忘れない。

「あ、アイツ〜〜〜こんな時の逃げ足だけ一人前なんだから〜〜〜!」 憤怒の形相に無線のスイッチを入れた。「もしもし私! 現在ターゲットを 発見するもゴドーのバカが強奪! 構わないから見つけ次第徹底的に 砲撃喰らわせてやって! ええ構わないからもうぶっとばしてやんのよ 絶対!!」


「ギャハハハハハ〜〜〜!! ザマ〜〜〜ミロコンチクショ〜〜〜 !! 最悪サイクスが見つかんなくてもコイツ協会まで引っ張ってきゃ 賞金はゲットだしよ〜〜〜、いや〜〜〜ツイてるぜウェッヘッヘ〜〜〜!!」

 嬉々満面とゴドーの高笑いを響かせ、プテラスを背負って荒野を駆ける 〈ガッツ〉。と、
 ひゅるるるる…チュドーン!!

「どわっ!?」

 いきなり砲撃が来た。
 ゴドーを追跡していたジェリー達による、カーライル一家怒りの砲撃 だった。

「撃て! 撃て! あの社会のダニ人間のクズに思い知らせてやんのよ!!」
「いいのかなあ」

 若頭ストライクのディスペロウ〈マリアッチ〉、その他若衆の スナイプマスターそれぞれからの攻撃が、荒野を逃げ回る〈ガッツ〉に 集中する。

「チックショ〜〜〜!! なんで清く貧しく美しく社会に奉仕する キ真面目な労働者のオレがこんな目に〜〜〜!!」

 さすがにこの大火力の前では泣いて逃げ回るしかない。集中砲撃を 奇跡的なタイミングでかろうじて避けつつ、必死に逃げ回る〈ガッツ〉。 と、一発の外れた砲撃が、大きく地面を吹っ飛ばした。そのすぐ地下に 埋まり、身を隠していた黒い機体が慌てて飛び出してくる。

「ゲッ! あれは…!」

 一声吼え、砲撃の雨の中を駆ける黒い機獣。偶然にもこんなところに ライトニングサイクスは隠れていた。


「ベリラッキ〜〜〜! ウオオ〜〜〜!!」

 その高速で引き離される寸前、腰のロケットアンカー発射。撃ち放たれた ワイヤーが背の動力供給ユニットに絡みつく。
 このまま逆噴射にて制動しようと思った瞬間、キュオオッ! なお周囲に 降り注ぐ砲撃で目を覚ましたプテラスが、ひと声高く啼きつつ慌てて その翼を振った。

「え?」

 ハンター用の重装備を施されているとはいえ、所詮は小型ゾイドゴドス である〈ガッツ〉。そのプテラスの翼の羽ばたきに、大地を力強く 駆けていた足がふわりと浮く。

「チョ、チョット待てオイ〜〜〜!!」


 日曜日の 午後3時。ティータ・スマッシュ(未成年)は今日も事務所のテレビ にて、週末の楽しみ競ゾイ中継に見入っていた。

「さー今日も頼むわよ、私のグリーン様ぁ♪」

 いよいよ贔屓の競争ゾイド、緑色のライガーゼロイェーガー 〈ビューティフルグリーン〉の出走レースである。出走を告げる銅鑼が 鳴り、コースを一斉に駆け出す〈ビューティフルグリーン〉含む9体の ゾイド。と、画面の中で異変が起こった。


「あ〜〜〜あ〜〜〜、もうみんなハナからグリーンとの勝負を避けて やがる…」
「あっ、〈ナニワヤカキノタネ〉が下げた! いったん引いて外から競る のか!?」
「バカヤロ〜〜〜〈ヨサコイプリンス〉〜〜〜! てめえも男なら番手で 競ったらどうなんだ〜〜〜!」
「この意気地なし〜〜〜! お前そうまでして2着がほしいのか〜〜〜!」
「オ〜〜〜シ! またナニワヤが行ったぞ〜〜〜それ〜〜〜!!」

 目前で繰り広げられるレースに、容赦のない醜い罵声もとい熱気の籠った 熱い声援を送る観客達。と、
 ドカーンッ!! 突然、競ゾイ場の外周の一角が吹っ飛んだ。そこから コース内に駆け込み乱入してくる、一匹の、誰も見たことのない異形の ゾイド――!

「ナ、何だよありゃ〜〜〜!!」
「おお、あれは…」

 退役軍人にしてフォッシルコロニー最高齢の競ゾイ予想屋、チューレン・ ポウトウ氏(87)は目を丸くした。
 激しい土煙を上げ、コースを疾走する異形の機獣。

「その者ゴジュラスの身体に…」

 ボディは、強靭そうな恐竜型の物だった。

「サラマンダーの翼を持って空を天駆け…」

 背中の飛竜の羽、マグネッサー・ウイングはその揚力となる波動を後方に 噴き出し、容赦のない加速を機体に与えていた。

「ウルトラザウルスの重厚なる四つ足を持って大地を割り…」

 …しかし、足回りは恐竜型でなく四足獣型だった。

「だーれーがーどーめーでーぐーれ〜〜〜!!」

 異形のゾイド――ライトニングサイクスの頭にまたがった、なおその翼を 羽ばたかせるプテラスを背負ったままの〈ガッツ〉。この上なく不気味に 三体のゾイドが折り重なったまま、競ゾイのコースを大暴走しているのだ!

〈ガッツ〉のコクピットの中で、未体験の超加速にゴドーが悲鳴を 上げていた。何しろ時速325kmで駆けるライトニングサイクスの脚力に、 マッハ2.2の飛行速度を持つプテラスの翼が加速力にプラスされている のである。Pの字のバッジを付けた某ヒーローなら、スピードとスピードが 単純にプラスされて、マッハ1を時速1200kmと単純計算しても、 時速2965kmは出ている計算なのだ(さすがにそんなわけないが)。
 コース上の競争用ゾイドたちをことごとくぶっとばし、コース上を駆ける 不気味な三体折り重なりゾイド。

「果てしなく続くと思われた大戦にひとつの終止符を打った伝説の存在。 その者の姿に敵は逃げ悪は恐れ、善なる者には尽きることなき勇気を与え 続けたという…伝説のゾイドケンタウロスが、今また再び儂の目に… 信じられん…」

 顔面蒼白となり、その老いた身体をワナワナと震わせるチューレン・ ポウトウ氏(87)。
 ついにゾイドケンタウロスならぬ三体折り重なりゾイドが、トップを 逃げるライガーゼロイェーガー〈ビューティフルグリーン〉へと迫った。 懸命に逃げる〈ビューティフルグリーン〉。だがやはり、単純なスピード 勝負ではこの大馬鹿コンビネーションのほうが早い。
 Ziユニゾンの原則どおり、ゾイドとゾイドの合体の公式は 1+1=?。決して2ではなく3にも10にもなる、無限の可能性を 秘めているのだ。
 とりあえずそんな解説はどうでもよく、あっさり後方からの追い上げに ぶっとばされる〈ビューティフルグリーン〉。すでに遅い気もするが、 審判が赤旗を振った。当然というか競争無効、ノーレースとなった。
 暴走したまま三体折り重なりゾイドがまた競ゾイ場から飛び出していく 様を、もはや呆然と見送るしかない観客達。後には荒れに荒らされまくった コースと、ぶっ倒された9体の競争用ゾイドだけが残った。

「ウ〜〜〜ン…」

 画面蒼白のまま、口から泡吹いてぶっ倒れるチューレン・ポウトウ氏 (87)。

「どうした、ジイサン」隣にいた、ガラは悪いが人情はそこそこある若者が チューレン氏の様子を見る。「ゲッ、死んでる!」


 退役軍人チューレン・ポウトウ氏(87)。戦時中ゾイドケンタウロスと交 戦するもビビッて戦線脱走を犯し、軍事裁判にかけられ服役するも終戦時の 恩赦にて不名誉除隊。競ゾイ中極度の興奮による心臓マヒで急逝。翌日 流れたこのニュースは、日頃ギャンブルなどに興味を持たない一般市民の 競ゾイ業界へのイメージをそこそこ下げることとなる。


 そのままフォッシルコロニーからの脱出を果たし、晴れて自由の身と なったライトニングサイクス&プテラスのコンビは、後に荒野を駆ける ユニゾンゾイドとして旅人達の伝説になった。


「や…やっと帰ってきた…」

 夜。心身ともにフラフラとなったゴドーと〈ガッツ〉の目前に、 フォッシルコロニーの街の明かりが見えた。あの競ゾイ場での大騒ぎの後、 結局2匹を捕まえるどころでなく、100キロ以上も離れた土地でやっとの ことで離脱に成功したのだ。
 と、そこへ飛来してくる、アミーナの白いレドラー。

「いたいた。ゴドー」
「アミーナ…」自分を探しに来てくれたのか? 思わずぶわっ、と号泣し、 飛来するレドラーの元に駆け寄る。「やっぱりオレとお前は赤い糸で 結ばれてたんだな〜〜〜!!」
「あ、ティータからの伝言持ってきた」
「え?」
「バカ〜〜〜アホ〜〜〜マヌケ〜〜〜! もう帰ってくるな、死ねこの カス! だって。あとこれ頼まれてた朝ごはん。それじゃ。ふわぁ…」

 言うだけ言って、眠そうにあくびを漏らし、ゴドーにコンビニの ビニール袋を渡してさっさと飛び去るアミーナ。

「……」

 アミーナのレドラーの去った後の、夜空の星を見上げるゴドー。いつか 自分も、空高く夜空に輝く星になりたいと若きゾイドハンターは 願うのであった。


「違法ゾイドの売買? いやーまったく知りませんねーそんなの。逮捕 されたヤミ業者がウチの会社の名を? ううむなんて失礼な。オッシャ うちとしても名誉毀損でその犯人どもを起訴しますよ。え〜〜〜もう そんな悪い奴らガンガンとっちめてやってくださいよハイ」

 …証拠となるライトニングサイクスがとうとう発見されなかったことで、 フォン・ツォーンに対し一連の事件のツケが回ることは一切なかったと いう。




あとがき


 原作「ギャンブルレーサー(田中誠/モーニングKC)」。現在 「イブニング」誌上にて「二輪乃書ギャンブルレーサー」とタイトル 変えて連載中。ハイ今回は、競輪漫画界の「あぶさん」こと 「ギャンブルレーサー」の二次創作編です(笑)。ちなみに原作の台詞回し などできるだけ忠実に再現したつもりですが、やっぱり自分は度胸が なさ過ぎて、原作ほど下品にすることが出来ませんでした。こんなチキン な自分をどうぞお許しください。ちなみに原作漫画、ぶっちゃけ競輪を 知らない自分でもおもろく読めるナイスな漫画なので、是非とも漫画喫茶 などでイッキ読みするのをお勧めしますです。

 さて、なんでまた今回こういう、いわゆる「パロディ」を書いたのかと いうと…ついに放映開始となったアニメ新作「ゾイドフューザーズ」。 おこがましいことを言えばネタが被ってた部分が多々あって…。その アニメのほうとの差別化を図る意味で、本来予定していた第5話の内容を こうしたパロディ編に差し替えた訳です。「荒鉄狩歌」ってのはこういう のも出来る世界ということで(笑)、ご認識いただければ幸いです。

 まあともかく、これでやっとストーリーも本来の方向に戻せるです。 次回はやっと物語の本筋、記憶喪失という恥ずかしいヒロイン、アミーナの 謎に絡む話…本来コレを今回やる予定だったんですがね。例によって更新は 不定期ですが、んではよろしく。

(2004.10.16)




豪雪地帯酒店・第二事業部は ものをつくりたいすべての人々を応援します。

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