第1話「Tough Boy」
大戦中、戦火のただ中に晒された荒野の町フォッシルコロニー。戦争を
生き延びた逞しき人々の力によって、焼け野原となった町は急速な再興を
遂げつつあった。だが、戦地の近くにあったこの町を戦後新たな問題が
襲っていた。乗り手を失い、本能の赴くままに暴れ回る、野生へと帰った
戦時中の兵器、戦闘機械獣ゾイドの群れである。
そして、依頼を受けてそんな野良ゾイドを狩ることを生業とする者
たちが現れることとなった。鋼鉄の狩人、ゾイドハンター――。
★
その突進を真正面から受け、ジェリー・カーライルの駆る真紅の
レオブレイズは一撃で跳ね飛ばされた。
「何なのよ、あのゴドス!」
横倒しになったコクピットの中、土煙を上げて大地を駆けていく野良
ゾイド、ゴドスの後ろ姿を、衝撃の痛みに唸りつつ恨めしそうに睨む
ジェリー。
通商のグスタフを襲い、町の流通に大被害を与えた一匹の野良ゴドス
捕獲の依頼をハンター協会が受けたことは当然の帰結だった。捕獲に
名乗りを上げたのはハンターであると同時、企業の社長の肩書きを持つ
フォン・ツォーンのツォーンハンティングと、若干16歳のジェリーが
率いるカーライル一家。資金力にものを言わせたカスタムゾイドのチームで
ある商売敵ツォーンがその捕獲に失敗したと聞き、たかが野良ゾイド、
それも戦争中の最量産機一機に何をとジェリーもせせら笑ったものだが、
実際遭遇したそのゴドスのそれとも思えぬ荒々しさと突進力は、同じく
ハンターであった母親の才能を譲り受け、若くしてその後釜を任された
腕利きであるジェリーをして手こずらせるものだったのだ。
一家の若衆のスナイブマスターの手を借り、再び身を起こす
レオブレイズ。
「こんなんで手こずっていたら、ママの顔に泥を塗るってもんよ――
なに?」
その、スナイブマスター2機とレオブレイズからなるジェリーのチームの
傍らを、小さな黄色い影が高速で横切った。ゾイドコアブロックひとつに
些少のパーツから構成される小型飛行ゾイド、ブリッツホーネットだ。
一瞬ですぐ側を通り抜けたといえ、その小型ゾイドはジェリーの見知った機
体であった。その背に乗っているのは、彼女の古い知り合いの少年のはず
なのだ。
「ゴドー! あんた、急ぎで小荷物の配達を受けたって言うからその
ホーネット貸してやったのに、こんなとこで何やってんのよ!?」
そのジェリーの声を背に、荒野を疾走するゴドスの横に並ぶブリッツ
ホーネット。併走するゴドスの横顔に視線を向け、にやと微笑む、
ホーネットの背に乗る少年ゴドー・スマッシュ。自身の乗るブリッツ
ホーネットをさらに急加速させる。
一瞬でゴドスの前に出るブリッツホーネット、機体後部のランチャーから
ペイント弾を発射。蜂の針を思わせるその砲身から発射されたカプセルが
ゴドスの鼻先を直撃、カプセル内に詰められていた汚臭を放つ古オイルが
飛び散り、その顔面たる風防ガラスを黒く汚す。さらに挑発するように、
ゴドスの眼前でその尻を振ってみせるブリッツホーネット。そして飛行
方向を左へと逸らす。
当然ながら、怒りとも取れる金属音の咆吼を上げ、ブリッツホーネットを
追ってくるゴドス。
「ついて来やがれ、この唐変木!」
その二本の足を大きく振るい、激進してくるゴドスを引き連れ付近の
森の中へと飛び込んでいくブリッツホーネット。追って森林をなぎ倒し
つつ森の中に飛び込んでくるゴドスを振り返って視認し、ゴドー、真正面の
コンソールにテープで貼り付けたリモコンのスイッチを押した。
瞬間、ブリッツホーネットの飛行軌道の地上に仕掛けられた十数機の
ウインチが、一斉にワイヤーを射出する。たちまち高速で飛び出し、
行く手を阻む十数本のワイヤーに絡め取られ、その突進を緩めるゴドス。
だが、止まることを知らない足は速度を落としつつもなお前へ、地上に
杭で固定されたウインチを次々と地面から引き剥がしつつ、逃走する
ブリッツホーネットを追おうとする。
「こんなんで捕まえられるなんて思っちゃいないけど、準備の時間が
あるんだよ」
なおもがくゴドスを尻目に、森の奥へと消えるブリッツホーネット。
そして、ゴドスの姿が見えなくなったあたりで、森の中に待機していた
自前のゾイドの元に着陸する。黄色くペイントを施されたカノントータス。
主武装の荷電粒子砲を外され、代わりに輸送用のデッキハンガーを背負った
民間払い下げの機体キャリートータスである。
ゴドー・スマッシュ、15歳。ふたつ下の妹と二人、父親の遺したこの
ゾイドで主に運送や引っ越し業を生業とする少年だ。だが本人は幼馴染み
であるジェリーへのコンプレックスも手伝い、ずっとゾイドハンターに
憧れを持っていた。しかし唯一の手持ちのゾイドであるキャリートータス
は所詮輸送用、スピードからしてゾイドハンターに必要な能力を満たした
機体とは言い難く、かねてからこの少年はハンターとして必要な機体を
探していたのである。
そして、まがりなりにも重ゾイドであるグスタフを撥ね飛ばし、
パイロットの操縦も無しにツォーンハンティングの改造ゾイド共を
蹴散らした暴走ゴドスの存在は、ゴドーにとってはうってつけの情報
だった。それだけのゾイド、捕え、モノに出来ればゾイドハンターと
して申し分ない戦力となる。
「行くぜ〈ドンガメ〉」
自機キャリートータスのコクピットに飛び込み、機体を動かす。そこへ、
遅れながらもこちらへ激走してくるゴドス。臆せず鈍重でもあるキャリー
トータスの機体を真っ向から向かわせる。正面から激しく激突する2機。
信じられないことに、その一撃で仮にも重量級のゾイドであるキャリー
トータスの足が一瞬地面から浮く。突進の足を緩めず、なおも押し切ろうと
するゴドス。
「この野郎!」
キャリートータスの背のハンガーに装備されたマニピュレーターを
振るった。作り付けの副肢からの思わぬ一撃を横っ面に喰らい、一瞬
怯んだゴドスがトータスから離れる。その隙にトータスを方向転換させる
ゴドー。鈍重なトータスを、出来うる限りの速度で森林を逃げ走らせる。
当然ながら追いかけてくるゴドス。
「真正面からダメなら、カメの最大の武器を喰らわせてやる!」
叫びつつ、遁走中にも関わらず背のデッキハンガーを起こすトータス。
一応は頑丈な作りのハンガー、重量もそれなりにあるため、足を固定せず
移動中に起こすなど本来危険極まりない行為だ。案の定、走行中突然後方に
持ち上がったハンガーの重量移動に、前足を浮かせかけるトータス。
「おりゃあああっ!」
だが、ゴドー、その浮きかけたトータスの前足でさらに地面を叩いた。
バンッ、と、後方にひっくり返るように大きく仰け反るトータス。突進で
追っていたゴドスからすれば、突然前方を巨大な壁で塞がれたような
ものだ。
激突音! 今度は宙に浮いたトータスの、背中からの体当たりの直撃を
受けるゴドス。さすがにその大重両のボディーアタックに堪えられる術も
なく、激進していた足を滑らせ、ひっくり返ったトータスに押し潰される
形で背中から地面に倒れる。間髪入れず、そのひっくり返ったトータスの
コクピットから飛び出すゴドー。その左手には鉄パイプを、右手には
大振りな拳銃を掴んでいる。
タグショット。ゾイドの急所に当てることでその機能を麻痺させる
電磁波を機体内部に迸らせ、同時撃ち込んだ者をそのゾイドを仕留めた者、
持ち主と認証する“焼き印”だ。タグショットの弾丸を、至近距離からゴ
ドスの首筋に喰らわせるゴドー。“焼き印”となる弾丸が首の構造に
食い込み、撒き散らされた電磁波が一瞬ゴドスの動きを麻痺させる。
「お前、なかなかいい根性してるじゃねえかよ、気に入ったぜ」
無人のゴドスのコクピット、風防ガラスの真上に着地するゴドー。この
突進力と気性の荒さ、この先ハンターとして開業する上での、自分の相棒に
相応しいものだ。
「決めたぜ、お前の名は〈ガッツ〉だ!」
大きく振りかぶった鉄パイプの一撃を、額にあたる風防フレーム部分に
叩き込んだ。ゾイド同士の格闘や大砲の一撃より遥かに微弱なはずのその
衝撃。だが少年の魂を込められたその一撃が、確かにゴドスの――
〈ガッツ〉のゾイドコアまで響いていた。
豪雪地帯酒店・第二事業部は
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